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朝日新聞のいまとこれから リニューアルプロジェクト

(本記事は朝日新聞テックフェス2024のテクノロジーショーケース第1部の採録です。当日の様子はこちら↓からご覧いただけます)

包と申します。朝日新聞デジタルのリニューアルプロジェクトのプロジェクトマネジャーをしています。

この写真は私の人生で一番カッコつけていると言われている写真です笑

今の朝日新聞はこういう感じ、リニューアルプロジェクトを通して朝日新聞はどこに向かおうとしているのか、ということをお伝えします。

私はちょうど2年前、朝日新聞社に入社しました。それまではスタートアップでずっと働いていました。マーケティングの分析事業の会社のCTOをしたり、パンが好きなので冷凍パンをお客さまにお届けするサブスク事業とかをやったりしていました。この2つは本当にゼロイチで、立ち上げのところをやっていました。そんなところから朝日新聞社という非常に歴史のある会社にきたのはなぜかというと…

2000年代後半、ずっとマスメディアが情報発信をしていました。その後ジャーナリズムはマスメディアが一方的に発信するものという世界から、Web2.0とか食べログにユーザーが投稿して星がついたりと、情報の民主化がされていきました。FacebookやXで誰でも発信でき、誰でもいろいろな情報を受け取ることができるという世界ができて「こうなったらジャーナリズムってすごい良くなるんだろうな」と当時は思いました。ところが今起きていることはフィルターバブルとか、エコーチェンバーと言われていますが、自分が受け取る情報が偏ってしまって、むしろ社会を分断しています。もともとジャーナリズムに興味があり、この状況をどうにかできないかと思った時、ジャーナリズムができる会社はあるかと考えました。

朝日新聞社には実は成功するために必要な要素が揃っていると思います。
1つは明確なビジョンがあること。なぜ働いているのかと振り返って立ち戻れるようなビジョンがあるということです。次にこの蓄積された財産です。これまで書いてきたたくさんの記事があり、記事以外にもいろいろなコンテンツが眠っています。そして人材です。これは人の多さもそうですが、優秀な人がいて、記者がたくさんいることです。デジタル領域への投資で、開発環境がモダンになっている、というのも重要なポイントでした。これらがベースにあれば、朝日新聞デジタルというプロダクトの力で日本のジャーナリズムに貢献できるかもしれない、と思いました。

これは朝日新聞綱領といって我々のビジョン、憲法のようなものです。これは1952年制定で、70年前に作られたものです。「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す。」とか、行動指針のようなものもあって「常に寛容の心を忘れず、品位と責任を重んじ、清新にして重厚の風をたっとぶ。」こういう壮大なビジョンが掲げられている会社です。

さらに約1700人の記者が日本だけでなく海外にもいます。一次情報にアクセスできる記者を抱えた組織はそうないはずです。また開発体制も整っていて、先日FindyさんのFindy Team+ Award 2024という開発生産性の高い組織を表彰するアワードで受賞しました。当然作るものもモダンになってきていて、昔から蓄積されたコンテンツを活用できる体制になってきました。

私の入社早々に、リニューアルプロジェクトが始まりました。このリニューアルは今あるものをリデザインするのではなく、朝日新聞がこれからどこに向かうのかを考えようということで、広木・社外CTOと議論したり、役員討議に出たりして色々と検討しました。一次情報の価値、情報を発信する新聞社の価値は変わらないどころか、むしろこれから上がっていくはずであるという仮説に辿りつきました。

一方で信頼される構造は昔から変わっていないと思います。朝日新聞が今なんとなく社会から信頼されているのは、先ほど夏目漱石や石川啄木が先輩としてスライドに載っていましたが、そういう歴史があって古くからやっているからではないかと思います。

ただSNSの台頭もあってこれからはそうはいかないはずです。あるべき状態は新聞社が発信する情報に透明性があることではないかと思います。なぜその事実が起きて、どういう取材をして、どうやって届けているのか、特に透明性があるから信頼できる。堅い記事だけでなく、分かりやすく読者に優しいコンテンツがあり、これが習慣化される仕組みがあって身近に感じられるから信頼できる、という構造にならなければいけないと思います。それを達成することで、本来、朝日新聞社が持っている価値をしっかり届けることができるのではないか、という仮説に立っています。

今回のリニューアルはこれから3年、5年続いていくプロジェクトで、朝日新聞はコミュニティになっていきたいと思っています。今までは、記者は社会と繋がっているが読者から記者の顔は見えず、朝日新聞が一方的に情報発信をしていました。一部フォーラム面のように読者の声を反映した記事もありましたが、基本的には朝日新聞が発信する情報というかたちでした。

これからの朝日新聞は、読者が記者と繋がって、どういう取材の過程で、どういう想いで、どんな顔の人が記事を書いてコンテンツを作っているのかが見えるようにしていきたいと考えています。記者が社会と向き合っていることを通じて、読者が社会と向き合っていくきっかけになるかもしれません。記者を通して社会と関わることで気づきを得たり、社会を動かせるかもしれないという期待感を持てたり、そういう形で社会と向き合っていくコミュニティになれればと思っています。

今年6月に、このプロジェクトの第一段階として記者とのコミュニケーション機能をリリースしました。記者が自分のプロフィールを書いて取材の過程や考え方を伝えると、それに対して読者がお便りを送れるという機能です。世間一般では普通の機能ですが、今まで新聞社はこのようなモデルを全くやっておらず、新聞社としては新しい取り組みです。

例えばサンフランシスコの五十嵐記者は生成AIの連載を書いているのですが、取材でOpenAIのオフィスに行ったらサードウェーブコーヒーがあったり、近くのパン屋さんのすごく美味しいデニッシュがあったりと、最強の人材を囲むためにすごい環境を作っている、という事を書いていて、その取材の過程で感じたことをつぶやいています。

最近の1つの事例で、パレスチナのガザ地区の取材をしている高久記者が、ガザにいるマンスール通信員と、今ガザは実際どうなっているのかということを1年間のメッセージのやり取りを通して、記事化したものがあります。マンスール通信員からは「イスラエルからの攻撃が激しくなった」とか、「攻撃が収まって、ちょっと周りの人が落ち着いているよ」という話が書いてあって、「日本の人たちが、ガザのことを気にしてくれることを信じているし、みなさんがいることが私が生きてることの動機にもなっています」と言っています。「おたより機能」を使ってこの高久記者にお便りを送ることができて、それをマンスール通信員にお伝えしますという記事を書きました。するとたくさんのお便りが届き、高久記者が翻訳してマンスール通信員に伝えると、それに対してメッセージを寄せてくれました。「ありがとうございます。本当に皆さんが平和を愛している人たちであることが伝わってきます。そのような人たちにガザのことを知ってもらうこの仕事を私は誇りに思っています。私は今はいろいろなことを考える余裕がないのですが、何とかこの地域を平和な地域にしたいと思ってます」。

今までは現地にいる一次情報を取材している人たちと、読者が直接コミュニケーションをとることはできませんでした。コミュニケーションが見えることで、考える、気づくきっかけを、我々は提供できていると思います。この機能をリリースして、プロダクトを出してみて、実際こんなことが起きたのか、と大きな気づきを得ました。

これからもこのリニューアルを通して朝日新聞は情報の伝え方やプロセスをどんどん変えていこうと思います。

今はもうどっぷり染まっている人間ですが、入社した2年前当時を少し思い出してみると、朝日新聞社には志があれば新卒も中途も関係ない、という空気があると思います。いきなりリニューアルプロジェクトのPMにしていただいたこともそうですが、同じ方向を向けているがゆえに、誰だからどうという雰囲気はなくて、すごくいいところだと思います。朝日新聞のコンテンツは宝の山で、 この145年超の歴史の中で作ってきたコンテンツは活かせるものがたくさんあると思っています。

良いことばかり言ってきましたが、1つ大変なのは、編集部門とのファイヤーウォールがあることで、コミュニケーションや調整が多々発生することです。例えば広告事業でA社の広告を出すからA社の悪い記事は書かない、ということをしてしまうとジャーナリズムは成立しません。メディアならではの難しさがあります。しかしそれもまたチャレンジですし、大規模なユーザーベースや様々なデータがあって、いろいろな最新技術を駆使するような環境があるので、私は面白いと思っています。

これからリニューアルでいろいろな機能がリリースされます。もっと聞きたいという方は、カジュアル面談にお越しいただければもう少しお話しできますので、ぜひ来ていただきたいと思います。朝日新聞って結構楽しいです。ご興味がありましたら、ぜひ色々ウォッチしていただけたら嬉しいです。


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